東京ハーフマラソン / あと57.805km

GARMINのGPSランニングウォッチで走る50代マラソンランナーの雑記。サブ3、エイジレコードを維持するのが目標。

2018, 戌年のShoe Dog達(1)

元旦。

何かを始めるには良い日だ。

そして、今年は戌年。走るには持って来いの年だといっても良い。

年末、忘年やら冬休みの制限ない飲み食いのおかげで増量した脂肪を落とすべくジョッギングを始めた。

 

…と、1月1日からスタートしようとしていたが、全く走っていない。

もう正月休みもとうに過ぎて、今日で1月も終わろうとしている。

そんな時期ではあるが、箱根駅伝の話からスタートする。

 

今年の箱根駅伝はいつものチーム間の争いとは別に、シューズメーカー間の争いも(一部では)クローズアップされた。

昨年放映され高視聴率をマークしたTVドラマ『陸王』や大迫傑選手のボストンマラソン福岡国際マラソンでの成績に代表されるNIKEのズームヴェイパーフライ 4%の実績、NIKEの創業者フィル・ナイト氏の自伝『SHOE DOG』のヒット、それにシューズ職人“匠”三村仁司氏のニューバランスとの専属契約発表とランニングシューズに大きく注目が集まる条件が揃ったのだから当然といえば当然だ。

2012年からadidasが青学チームとパートナー契約を結び、昨年までの3連覇はadiZERO takumi sen BOOSTシリーズを履いた選手たちが成し遂げた。adidasの同シリーズも売上げを伸ばしたは想像に難くない。

箱根駅伝の青学」はこのシューズのみならず、『青トレ:青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』をはじめとする「青トレ」シリーズ、その他の関連書籍でも経済効果をもたらした。

これらは駅伝マーケティングとしての成功例といっても良いだろう。

競合各社もこの箱根駅伝を狙ってくるのは当然の成り行きな訳だが、今年はそこに前述のブーム(『陸王』『SHOE DOG』、ズームヴェイパーフライ)や契約などの環境も相まって、シューズメーカーの東京箱根間往復大学駅伝競走ならぬ競争がクローズアップされる結果となった。

そんな2018年戌年、the year of the dogのSHOE DOG達のシューズについて自分の体験も交えながら思うところを書いてみたい。

 

『BORN TO RUN』vs『SHOE DOG』

2010年、『BORN TO RUN 走るために生まれた』(クリストファー・マクドゥールガル著)が出版されランニングシューズにベアフット系のブームを起こしたことは、まだ記憶に新しい。

ランニングシューズのクッション性、プロネーション、スピネーション防止、アーチサポートなどの機能がかえって怪我を誘発する。裸足やそれに近い薄底のシューズこそ人間に本来の走りをさせ、怪我から守る。ということが語られる。そして、そのような余計な機能を持ったランニングシューズは、フィル・ナイト氏とビル・バウワーマン氏のNIKEが作り始めたと名指しで指摘している。バウワーマン氏が前方に踵から着地する走り方とそれに合わせたシューズを作って売ったのだと。もちろん、それが悪意を持ったものではなく、より速く走る為に考えられ作られたものであると認めてはいるが。

バウワーマンが上手かったのは、自身の新型シューズでのみ可能な新たな走法を提唱したことだ。コルテッツによって、人はそれまで安全におこなえなかった走り方ができるようになった。それは骨ばった踵で着地することだ。

ただしその後(といっても2004年、コルテッツの発売から実に30年以上)、NIKEは「裸足で走れ」というキャッチコピーでFREEを発表した。

NIKEのスタッフがスタンフォード大学の陸上部(選手達にシューズを供給していた)が裸足で走っているのを見学し、その後の同社のラボでの研究によってFREEが生まれたストーリーはNIKEの公式サイトにも書かれている。

そのNIKEの創業者フィル・ナイト氏による自伝『SHOE DOG』が昨年出版されベストセラーにランクインした。SHOE DOGというタイトルではあるがシューズ作りに関してあまり触れられておらず、ビジネス面に焦点が当てられている。これを読んだ後に改めて『BORN TO RUN』を読んで見ると面白い。特に後年のバワーマン氏について、『SHOE DOG』であまり語られなかったことが『BORN TO RUN』に書かれていたりする。前述したように『SHOE DOG』がビジネス視点で語られているからかも知れないが、『BORN TO RUN』を読み直すと、フィル・ナイト氏は本当にSHOE DOGなのだろうか?という疑問さえ浮かんできてしまう。

さてシューズの話に戻ると、自分は前述のNIKE FREEの第二世代?を買って履いていた。ただし、その当時は真剣にランニングをしていた訳ではなく、単なる普段履きのスニーカーとしてだった。FREEがソールの屈曲性を謳っていたシューズだという印象はあるのだが、ベアフットランニングというものも知らなかったし、ミッドソールの側面に表示されている「7.0」という数字も「このシリーズのVer.7.0ということか?」くらいにしか考えていなかった。ちょうど当時「Web 2.0」という言い方に倣って色々な商品、作品の第二世代以降に「X.0」という数字を付けるのが流行っていたのだ。

NIKE FREEの「X.0」は実際はバージョンではなく、ソールの厚さと屈曲性を示す数字だ。数字が少ない程裸足に近い感覚になる。自分が買ったのは7.0だからFREEとはいえ、ちょっと厚目のソールだったようだ。ただし、屈曲性はしっかり確保されていた(現行のFREEには既にこのX.0という表記はなく、ランニングシューズとしては以前よりバリエーションもなくなってしまった)。

買った当時は自分にとっては普段履きスニーカーであったFREE 7.0だが、その後、真剣にランニングを始めた時(=このブログを始める少し前で2014年4月)もこのシュースで走り始めた。

昔、トライアスロンをやっていた頃に長く走ると腸脛靭帯炎を発症するようになり、もう長い距離を走るのは無理と諦めていたのだが、ランニングフォームに改善することでもう一度走ってみようと走り出したのだ。

体幹を意識した姿勢と体の真下への着地、これで走ってみるとどうやら調子が良いようで、10km走っても痛みは出なかった。特にシューズがFREEであったからだとは思わないが、結果的には合っていたようだ。

『BRON TO RUN』や『42.195kmの科学ーマラソン「つま先着地」vs「かかと着地」』を読んで、フォアフット着地について意識するようになったのはそれからしばらく経ってからのことだ。これらを読んでビブラムファイブフィンガーズを始めとするベアフット系のシューズの購入も考えたが、結局、NIKE FREE発売10周年のモデルで当時NIKEが開発したFlyknitアッパー(ポリエステル糸で編まれた足にフィットするソックスのようなアッパー)を使ったFREE Flyknit 3.0を購入した。

3.0なので最もソールが薄いモデルだ。ドロップ(踵とつま先のソールの厚さの差)も4mmと浅い。検討段階で少し不安もあったのとサイズの確認も兼ねて、会社帰りにこのシューズがレンタル出来るランニングステーションに寄って皇居の周りを2周した。

気持ち良く走れたし、痛みが出るようなこともなかったので、これを購入して練習に使うようになった。

このシューズは3年経った現在でも、自分のメイントレーニングシューズだ。

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「BREAKING 2」がBREAKしたもの 

そんなFREEで「裸足で走れ」とまで言ったNIKE(FREEは数あるランニングシューズの1シリーズに過ぎず他は従来通り)が、昨年、マラソン2時間切りを目指したプロジェクト「BREAKING 2」から生まれたズームフライシリーズでこれまで以上の厚いソールのシューズを発売してきた。

そして、そのキャッチコピーは「厚さは速さだ」。

 

2017年5月6日に3人のランナーがマラソン2時間切りに挑戦した。

公認のマラソンレースに於いてではなく、NIKEの「BRAEKING 2」プロジェクトとしてだ。この日の為に3人のランナーが選ばれ、2時間を切るためのあらゆる準備がされた。

NIKE内外の研究者や開発者によるプロジェクトチームとともにトレーニングを重ねながら、最適な環境や戦略、そしてシューズが用意された。

このシューズが選手個々にチューンナップされたヴェイパーフライエリートだ。

ヴェイパーフライエリートのベースは既に2016年のリオ五輪の男子マラソンでメダリスト3人が履いていたものらしく、これに改良を加えていったもののようだ。何れにしてもこの段階では市販モデルではなく、個々の選手に合わせて作られているのでこれをヴェイパーフライエリートと呼んだのは「BREAKING 2」プロジェクトからだと思われる。

残念ながら2時間切りは達成されなかったが、エリウド・キプチョゲ選手が2:00:25というタイムでゴールした。

プロジェクトは失敗だったのか?

否。ベストシナリオではなかったかもしれないが、それでもNIKEにとってはこのプロジェクトから生まれた(というよりもNIKEにとっては製品化、販売までがプロジェクトといえる)ズームフライシリーズがそれこそ飛ぶように売れているという結果は満足の行くものだろう。

最初にこのシューズのことを知った時は、「誰が25,920円(ズームヴェイパーフライ4%)も出してシューズを買うんだ?」と思ったが、蓋を開けてみれば買いたくても買えない、さらにネットオークションで販売価格を上回る値段で取引されるという状況だ。プロジェクトがBREAKしたのは2時間という壁ではなくランニングシューズ市場だった。

日本でのBREAKは、「BREAKING 2」よりも冒頭で触れた大迫選手の活躍によるところが大きいように思う。大迫選手はズームヴェイパーフライ4%を履いてボストンマラソンで3位(2:10:28)となり、福岡国際マラソンでも2:07:19で3位という成績を残したのだ。

そのズームヴェイパーフライは、「BREAKING 2」プロジェクトのズームヴェイパーエリートを元した市販モデルという位置付けのレースシューズ、さらにその廉価版あるいは耐久性を持たせたトレーニングシューズとしてズームフライ(16,200円)がラインナップされている(ズームペガサス34も同シリーズに括られているが厚底でもプレート入りでもない)。

「厚さは速さだ」のキャッチコピー通り厚底が目を引くシューズだが、もう一つ大きな特徴(こちらの方が影響が大きいと思うのだが)がある。

ミッドソールの間に挿入されたカーボン(ズームフライはカーボンナイロン)プレートだ。これが「足を思い切り前に押し出す感覚を提供」(NIKEによる説明文。「感覚を提供」という微妙な表現だ)する。

このプレートの推進力が違反なのではないか?という疑念あるが、これについては後で書くことにしたい。

そして、いよいよ世界のトップランナー達が履いたものに最も近いズームヴェイパーフライエリートが、2月3日に一部の販売店で数量限定で販売されるらしい。価格はなんと59,400円!

さらに同日に行われるNIKEのイベンント「NIKE ZOOM VAPORFLY ELITE CHALLENGE」では、競技で勝ち残った参加者だけに販売される予定だ。このイベントの競技説明は下記の通り。

シューズサイズ別の走行グループ編成となります。
400mトラックを5:00/kmペースからスタートし、一周ごとにペースが上がります。競技は最後の1名になるまで続きます。
各グループごとに、最も多く周回を走行した人から順番に、足数分だけ(各サイズごとに足数は異なります)購入権をお渡しします。
当日は、シューズ紹介後に、NIKE+ RUN CLUBによるウォーミングアップを行い、チャレンジがスタートとなります。

そして、注意事項として、

・購入権を手にいれた方には必ず購入をしていただくことが参加の条件となります。

と赤字で書かれている。

ズームヴェイパーフライ4%はネットも店頭も先着順の販売で、欲しくてもクリック合戦であっという間に売り切れてしまう。ネット販売分は転売目的のbotに買われてしまっているようで、オークションで高額取引されるという事態になっている。それを考えれば実力で買えるというのは良いのかもしれない。ただ、日時場所限定なので参加自体にハードルがある。例えば、陸連公認レースの記録提示で買えるなどにすれば良いのにとも思うが、それでも極少数の数量限定販売なのでフルでサブ2.5くらいでないと買えないというところだろうか?

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自分はヴェイパーフライ4%を当面最後のレースとなったつくばマラソンで履いてみたいと思ったものの、やはり25,920円という価格がネックで諦めズームフライで走った。

まず、店頭で試着してその形状に驚いた。

単に厚底というのではなく、ソールの前部が上に反っている感じで、シューズを履いて少し前に荷重すると自然にカクッと前傾することになる。プレートの力以前にシューズの形状自体が体を前に押し出すようなイメージだ。普通のシューズではフォアフットで着地した時に踵が浮く形になるが、このシリーズのシューズは踵と地面の間に厚底が挿入されたような感じになる。それが足の疲労を軽減するかもしれない。このシューズを見た時に、ある面白いエピソードを思い出した。

かつて皇帝ハイレ・ゲブレシラシェ氏(2008年2:03:59で自己の世界記録を塗り替えた)の意見を元にadidasがadiZERO Japan(adiZERO adios)の開発をしている際、試作品に対してゲブレシラシエ氏が「踵にもっとクッション性が欲しいのでソールを厚くして欲しい」と言ったという。しかし、氏のランニングフォームを撮影した映像を見ても踵はほとんど地面に着いていなかったという。

ゲブレシラシエ氏がズームヴェイパーフライを履いたら、気にいるだろうか?

 

さて、自分がズームフライを履いて実際に走ってみると、最初はこれまでと全く違う感覚があったが、すぐに慣れてしまった。レビューなどを読んでいるともっとグイグイ足が前に出る(クルクル回るという表現も多い)かと思ったが、それほどの推進力は感じない。自分は元々体の真下でフォアフット着地して走るフォームなので、このシューズにフォームを合わせるような必要は感じなかった。

 

残念ながら、完全にトレーニング不足の状態で走ったマラソンでの着用だったので、30km過ぎで足が止まってしまった。いや、それとも練習不足でも30kmまではキロ4:00〜4:05で走れたのはこのシューズのお陰だったのだろうか?ちゃんと調整できた状態で走ったらどうだっただろうか?しかし、ズームフライはレースで使うには重すぎるということは否定できない。次にレースに出る機会があったら(それまでに貯金して)ズームヴェイパーフライ4%かエリートで走ってみるか、それとも今までのレースシューズ(adiZERO takumi sen BOOST)に戻すかは微妙なところだ。

 

随分と長くなってしまったので、以降は次の投稿とする。

 

 

2018, 戌年のShoe Dog達(2) - 50/50(「バーチャルマラソンランナーの走行記」改題)